TSMCの動向(2025年2Q決算発表時のもの中心)

TSMCは世界最大の半導体受託製造企業(ファウンドリ)。半導体の設計を行わず、NVIDIA、Qualcomm、Appleなどのファブレス企業の設計に基づく製造を専門に行う。

TSMCは世界ファウンドリ市場シェアの6割以上を占め、特にAI関連企業の将来を占う上で、TSMCの業績や動向は多くの投資家にとって重要になる。

TSMCによる開示や重要な発言を、2025年2Q決算発表時のものを中心にまとめた。

徹底したファウンドリ

TSMCは1987年の創業以来、「顧客と決して競合しない」というコミットメントを掲げ、顧客の成功を自社の成功と位置づけてきた。

TSMCは、ファウンドリ(半導体受託製造)としての本業に徹している。メモリ、ロジック、車載、パネル、IoTデバイス、ドローン、ロボットといった他の分野には参入せず、ウェハ製造のみに注力している。

TSMC-Onlineを通じて、設計、エンジニアリング、ロジスティクスに関する情報を24時間365日提供し、リアルタイムでの顧客連携を強化している。

Open Innovation Platform® (OIP)は、半導体設計コミュニティとエコシステムパートナー間の革新を加速させるための包括的な設計技術インフラであり、設計期間、量産開始までの期間、市場投入期間、そして最終的には収益獲得までの期間の短縮を促進している。

先進技術の動向

既存プロセスの実績と見込み

2025年第2四半期において、TSMCのウェハー売上高のうち、業界をリードする3ナノメートル(N3)プロセス技術が24%、5ナノメートル(N5)が36%、7ナノメートル(N7)が13%を占めた(下図)。特にHPC(高性能計算)プラットフォームの成長がこれを下支えした。

参照:https://investor.tsmc.com/japanese/encrypt/files/encrypt_file/reports/2025-07/ba70f7b25e6afb3ddbd3b831b1a045e0aa76a5f7/2Q25%20Presentation%20%28E%29.pdf

N3およびN5の需要は非常に高く、特にN3は今後数年間非常に供給がタイトになると予想されている。多くのAI製品がN3への移行を進めているが、N5も4ナノメートル技術を使用する多くのAI製品によって需要が高く、供給が逼迫している。

TSMCはN7、N5、N3、そして将来のN2の間で85%から90%の共通ツールを有しており、これによりノード間のキャパシティ調整や変換が比較的容易。現在、N7のキャパシティをN5のサポートに、N5をN3に変換している。

N4XはHPC向け5nmファミリで、2024年に量産を開始した。

量産時期見通し

N2(2ナノメートル)技術は、2025年後半の量産に向けて順調に進んでいる。

N2P(N2の拡張)は2026年後半の量産が予定されている。

A16技術は2026年後半の量産に向けて順調に進んでいる。

A14技術は2028年の量産が予定されている。

AIチップはますます大型化し、消費電力が増加しているため、先進パッケージングの重要性が高まっている。

用途別の動向

実績

2025年第2四半期において、TSMCのウェハー売上高のうち、HPCが60%、スマートフォンが27%、IoTとAutomotiveが5%を占めた。

参照:https://investor.tsmc.com/japanese/encrypt/files/encrypt_file/reports/2025-07/ba70f7b25e6afb3ddbd3b831b1a045e0aa76a5f7/2Q25%20Presentation%20%28E%29.pdf

HPC (High-Performance Computing)は堅調なAIおよびHPC関連の需要に支えられ、売上高は前四半期比で14%増加、総ウェーハ売上高の60%を占めた。AIからの需要は、ソブリンAIからの増加を含め、ますます強まっていると認識されており、トークン量の爆発的な増加は、AIモデルの使用と採用の増加を示し、より多くの演算能力が必要とされ、最先端シリコンの需要につながっている。

次期のHPC事業も、TSMCの最先端プロセス技術への強い需要によって牽引されると予想されている。

スマートフォンは、総ウェーハ売上高の27%を占めた。マクロ経済の不確実性を考慮すると、スマートフォン市場の成長はわずかになると予想されている。しかし、長期的には5Gへの不可避な移行、性能向上、バッテリー寿命延長、バイオセンサー、より多くのエッジAI機能へのニーズがスマートフォンの販売成長を継続的に促進すると考えられている。

IoT:IoTデバイスにAI機能が組み込まれるにつれて、IoT産業は堅調な長期成長を達成すると予想されている。

Automotive(車載):「より環境に優しく、より安全で、よりスマートに」という業界のメガトレンドが、電気自動車(EV)、先進運転支援システム(ADAS)、スマートコックピット/インフォテインメントシステムの採用を加速させ、新しい電気/電子(E/E)アーキテクチャと共に、1台あたりのシリコン含有量を継続的に増加させると考えられる。

その他の見通し

NVIDIAのH20製品が中国への出荷を許可されたことについて、TSMCは「まだ明確なシグナルを受け取っていない」として、業績予測の上方修正は時期尚早との立場を示している。なお、NVIDIAは以前、H20製品の中国市場への輸出にライセンスが必要となった際、「中国市場が事実上、米国産業に対して閉鎖された」と述べ、H20製品に関して300億ドルの在庫評価損を計上している。

エッジAI(On-device AI)については、顧客が製品の新しい設計を完了するのに1年から2年がかかり、現在はその途上にある。エッジAIの爆発的な増加は2026年上半期頃に見られると予想されている。

人型ロボット(Humanoid Robots)は医療産業などでの活用が期待されるが、2025年や2026年に大きな役割を果たすには時期尚早。だが、一旦本格化すればTSMCに大きなプラスになると見ている。なお、人型ロボットは多数のセンサー技術(イメージ、圧力、温度)とCPUへのフィードバックを伴う非常に複雑な技術。

製造拠点の拡大計画

TSMCは製造技術のリーダーシップと大規模生産拠点という基本的な競争優位性を活用し、事業を展開するすべての地域で最も効率的かつ費用対効果の高いメーカーになることを目指している。

TSMCは、台湾の資源(土地、水、電力、人材)に限りがあることを踏まえ、将来の大きな成長を支えるために海外にも拠点を設けてる。現在の事業規模が非常に大きく、そしてビジネスが「良すぎる」ため、台湾の資源だけでは将来的に不十分になる可能性があり、海外のリソースを利用する必要があるという考え方をしている。

米国での最先端技術への投資と、日本やドイツでの特殊技術への投資は異なる分野であるため、一方の投資が他方の投資に影響を与えることはない。

台湾

台湾政府の支援を受けて、今後数年間で11のウェハー製造工場と4つの先進パッケージング施設を建設する計画。 新竹および高雄サイエンスパークの両方で、顧客からの強い構造的需要をサポートするために、複数のフェーズにわたる2ナノメートル工場の準備を進めている。

米国(アリゾナ)

最初のN4プロセス技術を使用する工場は、2024年第4四半期に高量産を成功裏に開始し、台湾の工場に匹敵する歩留まりを達成している。

3ナノメートルプロセス技術を使用する2番目の工場の建設は既に完了しており、有力な米国顧客からの強い関心を受け、そのニーズをサポートするため、量産スケジュールを数四半期早めることに取り組んでいる。

2ナノメートルおよびA16プロセス技術を使用する3番目の工場の建設も既に開始されており、AI関連の顧客からの強い需要に基づいて、生産スケジュールの加速を検討している。

4番目の工場はN2およびA16プロセス技術を使用し、5番目と6番目の工場はさらに高度な技術を使用する計画があるが、これら工場の建設と立ち上げスケジュールは顧客ニーズに基づいて決定される。

日本(熊本)

日本の政府からの強力な支援を受けている。

最初の特殊技術工場は、2024年後半に非常に良好な歩留まりで量産を開始した。この工場は主にCMOSイメージセンサーなどの特殊技術向け。

2番目の特殊工場の建設は、地元のインフラの準備状況に応じて、今年後半に開始される予定。その立ち上げスケジュールは、顧客のニーズと市場状況に基づいている。

欧州(ドイツ・ドレスデン)

欧州委員会およびドイツ連邦・州・市政府からの強力なコミットメントを受けている。

特殊技術工場の建設計画はスムーズに進んでいる。立ち上げスケジュールは、顧客のニーズと市場状況に基づいている。この工場は自動車産業向け。

リスク関連

顧客やTSMC自身が、外部からの政治的な圧力や関税といった干渉を受けることがあると認識している。

TSMCは政治的な専門家ではなく、本業をしっかりと行うことに注力している。政治に関わることには多くの労力を費やしたくない意向を示しており、技術力を高めることが、各国政府や産業に対して重要であり続け、交渉力を得るための鍵であると考えている。政府への提言は、半導体産業協会のような形で行う。

為替変動リスクは完全にヘッジすることが難しく、為替レートの変動が粗利率に影響を与えることが示されている(1%の変動で粗利率が0.4%影響)

TSMCは地震の影響を受ける。例えば2025年1月21日に発生した地震とその後の余震によって、一部の製造中のウェハーが影響を受け、廃棄せざるを得なくなった。この被害の影響は、AI関連の需要の継続的な成長によって相殺された。

持続可能性目標

2050年までにネットゼロエミッションの達成を目指す。

2040年までに運営で使用するエネルギーの100%を再生可能エネルギーにする目標がある。

2030年までの再生可能エネルギー利用率について、具体的な年間目標の明確化や、現在進行中および計画中の再生可能エネルギープロジェクトの詳細・進捗の開示が株主から求められており、会社側も主務官庁との確認後に情報開示を行うとしている。

2030年までの再生可能エネルギー目標達成に向けて多くの課題があることを認識してる。2023年時点で、生産プロセスで使用されるエネルギーのうち再生可能エネルギーが11.2%に留まっている現状が示されている。

コメント

タイトルとURLをコピーしました