
日本の株式市場がアメリカほど発展しない理由について、しばしば「日本株のROE(自己資本利益率)の低さ」が指摘される。日本株と米国株のROEをデュポン分解し比較すると、財務レバレッジ、総資産回転率に大きな差はなく、利益率の低さが際立つ。この分析から、「日本株は利益率が低く、それが問題である」という見解が広く浸透しているのは事実である。
しかし、この通説は一面的な見方に過ぎない。日米の事業特性の違いを考慮すれば、単純な利益率の比較はミスリーディングであると言わざるを得ない。例えば、日本を代表する自動車メーカーであるトヨタ自動車と、アメリカを代表するソフトウェア企業であるマイクロソフトを比較してみよう。自動車製造業は、鉄鋼や樹脂といった物理的な原料を必要とし、製造プロセスにも多大なコストがかかる。一方、ソフトウェアは一度開発されれば、複製コストは極めて低い。このような事業特性の違いから、必然的に自動車産業の利益率はソフトウェア産業に比べて低くなる。したがって、日本株全体の利益率が低いからといって、直ちに経営効率の低さを結論付けるのは早計である。
むしろ、日本株が抱える本質的な問題は、財務レバレッジの低さにあると考えるべきだ。確かに、数値上の財務レバレッジは日米で大きな差が見られないかもしれない。しかし、前述の通り、日本企業の多くは総資産回転率や利益率を飛躍的に向上させることが難しい事業特性を持っている。そのような状況下において、ROEを向上させるための最も現実的な手段は、財務レバレッジを高めることである。工場や設備といった有形固定資産を多く保有する企業であれば、それらを担保に資金調達を行い、事業規模を拡大したり、新たな投資を実行したりすることが可能になるはずだ。物理的な資産をほとんど持たないソフトウェア企業と同程度の財務レバレッジに留まっている現状は、日本企業の成長機会を逸していると言わざるを得ない。
さらに言えば、この財務レバレッジ不足の根源には、日本の銀行の存在が深く関わっていると考えられる。「護送船団方式」と呼ばれる旧態依然とした金融行政によって守られてきた結果、日本の銀行はリスクを取ることを極端に恐れる傾向がある。彼らは、企業の事業の将来性や成長性を十分に評価する能力に欠けているのではないだろうか。財務諸表を詳細に分析し、将来のキャッシュフローを予測する代わりに、経営陣との飲み会や接待ゴルフといった場を通じて人間関係を構築し、融資の判断を下すという慣行がいまだに色濃く残っているという指摘もある。このような融資姿勢では、企業の潜在的な成長力に見合った適度な財務レバレッジがかかるはずもない。
結論として、日本株の発展がアメリカ株に及ばない理由を単純に利益率の低さに求めるのは、事業特性の違いを無視した短絡的な見方である。真に問題視すべきは、日本企業の事業特性を考慮した上での財務レバレッジの低さであり、その背景には、リスクを恐れる日本の銀行の融資姿勢が存在すると考えられる。日本経済の活性化のためには、企業がより積極的にリスクを取り、成長投資を実行できるような金融環境を整備することが不可欠である。そのためには、銀行の融資能力の向上と、事業の将来性を適切に評価できる新たな金融システムの構築が急務と言えるだろう。
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